「復帰された早々、お忙しそうですね、父上は」
 その視線の先を目で追ったシモーヌは、そう言うと椅子に座った。
「ええ。イギリスの長弓に対抗するために砲兵を揃えたり、常備軍を編成したりする上に、貴族にも課税するとかで、なかなか顔も見せてくれないわ」
「まぁ、それはお淋しいでしょう?」
「少しね。でも、貴女が帰ってきてくれたから、今はそうでもないわ」
 そう言うと、マルグリットは少し目立ってきたシモーヌのおなかを触った。
「もう少しね?」
「はい。此処で産みたいので、宜しくお願いします」
「それはいいのだけれど、よくジャンヌ様がご承知なさったわね?」
「それが、その……夫に若い愛人が出来まして……」
「えっ!」
 マルグリットは目を大きく見開くと、シモーヌの手をギュッと握った。
「大丈夫なの? まさか、屋敷に連れ込んだりとかはしてないわよね? あ! メイドに手をつけるということもあるわよね。ああ、本当にどうしましょう……」
「どうか落ち着いて下さい。その点でしたら、大丈夫ですので。村の娘のようで、屋敷には入れないし、縁も切れたとのことですし」
「本当に……?」
 心配そうにマルグリットがシモーヌの顔を覗き込むと、彼女は頷いた。
「もう彼女には同じ年の恋人が出来たそうですし、大丈夫だと思います」
「そう。それならいいのだけれど……。一体、相手はいくつなの? 若いっていうけれど、貴女の夫のピエール様もまだお若いわよね?」
「それがその……14歳らしいです」
「えっ………」
 確かに、マルグリット自身もその年齢の時には結婚話がいくつか持ちあがっていたし、シモーヌが結婚したのは18。しかも、その時、夫のピエールはまだ16だった。そんなに年が違うとは言えないが、それにしても早熟過ぎるのではないかと、マルグリッドは思ってしまっていた。
「シモーヌ、貴女の夫は今年……」
「18歳になりました。まだ遊びたい盛りなのでしょう。それに、むこうから誘惑してきたとのことですし……」
「14歳の子供が誘惑……」
 マルグリットはそう呟くと、頭痛がしてきたのか、少し頭を押さえながらふらついた。
「大丈夫ですか?」
 シモーヌはそう言うと、そんな彼女を支えた。