「やっぱり……」
「あいつには言うでないぞ! 又、倒れでもしたら、大変だ。今回は何とか母子共に助かったが、次も助かるとは限らないからな」
「分かっております」
 マルグリットはそう言って夫に近付くと、同じく厳しい表情になって尋ねた。
「それで、何と?」
「異端再犯の審理がじき、始まる」
「異端……再犯?」
 その言葉に、マルグリットは目を丸くした。
「どういうことなんですの? 乙女が何かしたのですか? 確か、牢に入っていたのでは……」
「乙女はそこから出ていない。私が知る限りではな」
「では、『再犯』とはどういうこなのです? 一体、何の罪なのです?」
「イギリスを、ピエール・コーションという司祭を追い込んだ罪、なのだろうな」
「それって……」
 今にも泣きだしそうな表情の妻に、アルテュールは顔を背け、低い声で言った。
「でっちあげもいいところだろう」
「陛下は……? 何も……?」
 その言葉に、アルテュールは首を左右に振った。目をつぶって。
「何故なんですの! 乙女のお蔭で、ランスで戴冠出来たのではありませんか!」
 泣きながらそう言うマルグリットの口を、アルテュールは慌ててその大きな手で押さえた。
「しっ! シモーヌに聞かれるぞ!」
「あ! はい……」
 そう言うと、マルグリットは涙を拭い、夫を見た。
「あなた、どうか、乙女を……あの子の友人をお救い下さい!」
 妻がその大きな手をギュッと握り、すがりつくような目で夫を見ながらそう言うと、彼は頷いた。
「最善は尽くす」
 そう言うと、彼はマントをひるがえし、その場を後にしたのだった――。