「ふふ、本当に父上と母上の仲がよくなられたようで、安心しましたわ。もう一人、男の子を授かりましたら、お二人に託しますので、その調子でいて下さいましね」
「まことか!」
 そう叫んだのはアルテュールだったが、マルグリットも同時にジャンヌとその夫を見た。
「はい。夫にもその旨を言い聞かせましたので、大丈夫です」
ジャンヌが頷きながらそう言うと、冴えない夫はブスッとした表情で横を向いた。
「うちの嫁だというのに、何故そこまでせねばならんのだ!」
 小さい声でそう言いながら。
「あなた! そう言うあなたこそ、土地付き娘だから貰ってやると言って、この屋敷に入り込んだのではありませんか!」
「そ、それはだな……」
「今まで随分偉そうになさった上に、侍女の数人にも手をつけられましたわよね? 私が知らないとでも思ってるんですか! 全部知ってますわよ! いつ追い出されてもおかしくないということ、少しは自覚してらっしゃいますの!」
「う、うう……。何もお前、嫁やその両親の前で、その様なことを言わなくても……」
「今言わずして、いつ言うのですか!」
 キッと夫を睨みつけたまま、そう言うジャンヌに、アルテュールはマルグリットと目配せをした。
「で、では、我々はこれで……」
 作り笑いを浮かべ、わざと小さい声でそう言うと、アルテュールはそこを後にした。
 勿論、マルグリットもそれに続く。

「やれやれ……。私は、ああいう類の話は苦手だ」
「ふふ、私もですわ。でも、シモーヌのことを考えれば、あの方が良いと思いますわよ。少なくとも、あのいけすかない男がこの屋敷を牛耳るよりは、ずっと」
「もうやめなさい、マルグリット! 此処は、その男の屋敷なのだぞ!」
「あら、奥様の屋敷ですわよ、正確には」
「まぁ、それもそうなのだが……」
 アルテュールはそう言うと溜息をつき、苦笑した。
「やれやれ、女は強し、だな。まぁ、それだけ元気ならば、大丈夫だろう」
 その言葉に、マルグリットは目を丸くした。
「あら、本当にもうお帰りになられますの?」
「ああ」
「ひょっとして、何か連絡がありました? 乙女のことで……」
 その言葉に、アルテュールは少し厳しい表情で妻を見た。