「何だよ、それ! どういう意味だよ!」
「まだ子供だということです」
「何だって!」
 たちまち怒りをあらわにする、ジョルジュ。
 先程と同じく顔は赤くなっているが、その表情から照れているのではなく、怒っているというのが分かる位、目が釣り上がっている。
「兄貴まで何だよ!」
「本当のことではないですか。すぐに嫉妬したかと思うと、素直にならずに偉そうにするし」
「そ、それは、性格だろ! そんなことまで、いちいち言われたくねぇよ!」
「ほら、又、それです」
 マルクはそう言うと、プイと横を向いたジョルジュを指さした。
「何だよ!」
「注意されると、すぐに頬を膨らませて、拗ねる」
「拗ねてなんか、いねぇよ!」
「拗ねていなくて、何なのです! まるで欲しい物を買ってもらえず、ダダをこねる子供のようですよ!」
「そんなガキと一緒にすんなよ!」
 ジョルジュはそう叫ぶと、自分よりずっと大きい兄に食ってかかった。
 もうこうなると、最初のきっかけとなったシモーヌのことなど、目に入っていないようだった。
 ……何か、なかなか終わりそうにないわね……。本物の兄弟喧嘩って、こんなものなのかしら?
 体の大きさは違うものの、本気で言い争っているようにしか見えないマルクとジョルジュの二人を見ながら、シモーヌはそう心の中で呟き、溜息をついたが、二人は彼女が溜息をついたことさえ、気付いていないようだった。
 帰ろう……。バートさんのことも心配だし。
 シモーヌは心の中でそう呟くと、音をたてずに後ずさりをし、二人がこっちにまだ気づいていないことを確認すると、そっとその場から離れた。
「何だよ! 結局、兄貴もそいつのことが好きなのかよ? だったら、はっきりそう言えばいいじゃねぇかよ!」
「私は、何も……」
「いいじゃねぇか! 聞いてみようぜ! 兄貴と俺とどっちを選ぶのか、本人によ! おい、シモーヌ……って、あれ?」
 いつの間にか、彼女がそこから姿を消していたことに気付いて、ジョルジュは周囲を見回した。
「あいつ、どこだ?」
 マルクは、そんな彼に溜息をつきながら言った。
「呆れて、宿屋に帰ったのでしょう」
「そんな、勝手に帰るなんて!」
「気付かずに声を荒げていたのは、誰です?」
「兄貴だって、気付いてなかっただろ!」
「気付いてましたよ。さっきね」
 その答えに、ジョルジュは咄嗟に言葉が出なかった。