背が高く、目鼻立ちも整っているシモーヌと比べるとかなり見劣りはするものの、決して醜くなどなかったのだが、かといってとりたてて目立つところも無い、上品なだけの女、というのが素直な感想だった。
「あの……失礼ですが、このお屋敷の奥様でいらっしゃいますか?」
 その女の隣に、以前この屋敷に来た時には偉そうにふんぞりかえっていた小太りの男が、ムッとした表情でいるのを見、マルグリットは遠慮がちにそう尋ねた。
「はい。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私、ジャンヌ・ド・マルジーと申します。お見知りおき下さいませ」
「ジャンヌ……」
 その名に思わずマルグリットがそう呟き、夫を見ると、彼も苦笑していた。
「はい。私もあのオルレアンの乙女と同じ名なのです。確か、リュクサンブール夫人も同じ『ジャンヌ』で、珍しい名ではないと分かっていても、運命を感じずにはいられませんわ」
 ピエールの母、ジャンヌ・ド・マルジーがそう言うと、アルテュールが小さな声で言った。
「それを申すのなら、我が母もだ」
「え?」
 ジャンヌが驚いて、自分よりずっと背の高い美青年を見ると、彼は何故か少し困った表情で、コホンと咳払いをした。
「あ、いや、だから、その……」
「ジャンヌ・ド・ナヴァール Jeanne de Navarre 様でしたわよね、確か?」
 マルグリットが彼の代わりに答えると、彼は頷いた。
「申し訳ありません。主人は幼い頃、母に置いていかれましたので、あまり母親のことに触れたくないのです」
 そんな夫を察してマルグリットがそう言うと、ピエールの父が顔をしかめた。
「置いていかれた、だと……?」
「彼の母は2代前のイングランド王、ヘンリー4世の2番目の妻なのです」
「まぁ……!」
 ジャンヌは大きく目を見開いてそう言うと、まじまじとアルテュールを見詰めた。
 アルテュールは、その端正な顔を少し横に向け、茶というよりは金に近い眉を少しひそめた。
 それでも、小太りで嫌味、おまけに傲慢という夫しか知らない彼女にはとんでもなく美しく映ったようだった。顔を真っ赤にしてうつむき、盗み見るように再びその顔を見たので。
「駄目ですわよ、ジャンヌ様。アルテュールは私の夫です。お譲りしたりなど、致しませんわ!」
 そんな彼女の態度を見て、マルグリットがそう言い、驚くアルテュールの腕を取ると、ジャンヌは慌てた。
「も、申し訳ございません! そういうつもりではなかったのですが、絵画で見たミカエル様のようだと思いまして……。はしたないところをお見せ致しました」
「い、いえ、こちらこそ……」
 素直に謝るジャンヌに、マルグリットもそう言い、作り笑いを浮かべると、アルテュールは溜息をついた。
「まったく、お前は何を勘違いしておる! 孫もおるというのに、恥ずかしい!」
「ご、ごめんなさい、あなた……」
 マルグリットがシュンとなりながらそう言うと、ベッドからそんな様子を見ていたシモーヌが、我慢しきれなくなったように噴出した。