「シモーヌが!」
 古びてはいるが、広く、厳かな屋敷の一室で、マルグリットは大きく目を見開いていた。
 その隣には、珍しくアルテュールも居た。どうやら、シモーヌが嫁いでからというもの、二人で過ごす時間が増えているようだった。それだけ二人の溝が埋まったのだと、彼女がそこに居れば喜んだかもしれなかった。
「それで、おなかの子とあやつの容態はどうなのだ? 無事か?」
 その言葉に、ピエールの使いで来た男は、視線を泳がせた。
「それが、その……」
 言い澱むその姿に、マルグリットは頭を抱え、椅子の上に崩れ落ちた。
「マルグリット!」
 アルテュールは慌てて妻を抱きかかえながらも、その男を怒鳴りつけた。
「何をしておる! 早く続きを申さぬか!」
「は、はい! 赤子は何とか無事でございます! 少し早産でしたので、小さ目ではございますが、元気な男の子でございます」
「それ、見ろ、マルグリット、無事であったであろうに!」
 アルテュールが顔をほころばせながらそう言うと、マルグリットは涙を流しながら微笑んだ。
「あの……ですが、若奥様の方が、その……」
「何だ! 又、思わせぶりな言い方をしおって!」 
 アルテュールがそう言いながら男を睨みつけると、彼は怖がって後ろに数歩後ずさりをしながらこう言ったのだった。
「き、危篤でございました!」
「え……?」
 その言葉に、アルテュールは目を丸くし、それ以上何も言えなかった。
「そんな、シモーヌ!」
 マルグリットはそう言うと、再び夫の腕の中で気を失ったのだった。

「まぁ、そんなにご心配をおかけしてしまったのですか。本当に申し訳ありませんでした」
 春先らしい、暖かな日差しの中、天蓋付きベッドで、上品なネグリジェにくるまる女性はそう言うと、軽く頭を下げた。
 それは、先日、子供を予定より早く出産したシモーヌで、少し頬がこけ、顔もまだ少し青かった。
「いいのよ、そんなことは。無事でいてくれたのだし、何より、こんな可愛い赤ちゃんの顔だって見れたのですもの」
 マルグリットはそういうと、赤ん坊を少し高く抱き上げた。
 いつもなら、此処に来るまでの間に体力を消耗してしまうというのに、シモーヌ危篤の知らせを受け、いてもたってもいられず、気を張ったままでいたからか、今回はそんなに青い顔になっていなかった。