「おい、よせ、ジョルジュ! お前、飲み過ぎだぞ!」
「へん、いいじゃねぇかよ! せっかく新入りが来たっていうのに、なぁ?」
 ジョルジュと呼ばれた栗色の巻き毛の少年はそう言うと、少女にグラスを差し出した。
「な、お前も飲めよ!」
「私は、結構です。あまり飲めませんので……」
 シモーヌがそう言うと、ジョルジュは馬鹿にしたような表情で彼女に近付いて来た。
「何だ、お前、まだ子供なんだ! そんなデカそうななりしてっから、てっきり俺より年上かと思ったぜ!」
 すると、シモーヌはちらりとジョルジュを見たが、すぐに彼から視線を逸らし、酒場の主人を見た。
「何か登録するのに必要な書類とかはあるのでしょうか?」
「そうだな。名前と、いざという時の連絡先位かな」
 その二人の会話に、シモーヌより十センチ位背の低いジョルジュは、ムッとした表情になった。
「無視かよ!」
 そう言うと、彼は空になったワイングラスを振り上げ、シモーヌの方に振りおろそうとした。
「危ないですよ」
 だが、その手首を彼女に握られ、ブルブル震えながらグラスを落としそうになると、彼の手首を捕えたのとは別の手で、彼女がそれをキャッチした。
「マスター、これはお返しします。もうこの方は、飲まない方がいいようですので」
 そう言ってグラスをカウンターの上に置いた彼女に、ジョルジュは顔を真っ赤にして食ってかかった。
「何だと、このアマ!」
 彼がそう言って、手首を掴まれているのとは違う方の腕で殴りかかろうとすると、その腕を大きな腕が掴んだ。
「いい加減にしないか、ジョルジュ!」
「兄貴……」
 ジョルジュより二十センチは背が高く、少女よりも少し背の高い金髪の男の顔を見ると、栗毛の少年は肩を落として大人しくなった。
「何だよ、兄貴までこいつの味方をするのかよ?」
「どう見ても、初めて来た、それも女の子に酔っていいがかりをつけたようにしか見えないからな」
「いいがかりって、俺は別に……。ちょっと、ここでの礼儀ってもんを教えてやろうと思っただけだよ!」
「女の子にいきなりグラスを叩きつけようとするのが、男の礼儀か?」
「それは……ちょっとやり過ぎかもしれないと思ったけどさ、傭兵に志願するってんだ。反射神経を見てやろうと思っただけだよ」
「よけれずに、顔に怪我でもさせたら、どうするつもりだったんだ?」
 その言葉に、ジョルジュは思わずシモーヌを見た。
 雪のように白い肌に、真っ赤な唇。形のよい眉に切れ長の緑色の瞳。どこからどうとっても、人形のように美しい顔立ちだった。
 こんな顔に傷なんかつけちゃいけねぇよな……。
 流石の彼もそう思う程だった。