審理には、モン・サン・ミシェル大修道院長のロベール・ジョリジェの他、大学関係者、教会参事会員等40名程が出席していた。
 その一部は、ピエールの息のかかった者で、自分の意志で出席していたが、大半の者は出席を強要され、強い恐怖心をあらわにしていた。
 もしあの小娘が通じているとすれば、あの猪(いのしし)男(=ラ・イール)の崇拝する、アルテュール・ド・リッシモンのはず。オルレアンで姿を見せたという金髪の美少女もおるしな……。だが、流石にここまで入ってはこれんはずだ。まぁ、全員が私の味方ではないにしろ、ここに出席しておいて、未だにリッシモンと通じておるような肝のすわった奴はおるまい。まずは、何としてでもあの小娘の息の根を止めねばな!
ピエール・コーションは心の中でそう呟き、にやりとすると、ジャンヌの方を向いた。
「では、再びお前に尋ねる。お前は、神の恩寵を受けているのか?」
 ジャンヌは目を閉じ、少し何かを考えた後で、目を大きく見開くと、ゆっくりとこう答えたのだった。
「もし私が恩寵を受けていないのならば、神がそれを与えて下さいますように。もし私が恩寵を受けているのならば、神がいつまでも私をそのままの状態にして下さいますように。何故なら、もし神の恩寵を受けていないと分かったなら、私はこの世で最も哀れな人間でしょうから」
――と。
 彼女のこの対応は、ドンレミで聴いたという「声」に関しても同様だった。
「聖ミカエルが現れた時、どんな姿をしていたのか? 裸だったのか?」
との問いにジャンヌは、
「神様が聖ミカエルさまに着せる物を持っていらっしゃらないとお思いですか?」
と答えた。
 これは、、彼女の問いに「はい」と答えようが「いいえ」と答えようが、どちらにしても彼女に有利に働く答えだった。
 ピエール・コーションは、悔しさに唇の端を少し噛むと、又質問を続けた。
「聖ミカエルに髪の毛はあったか?」
 すると、ジャンヌあ微笑んだ。
「何故、髪の毛を刈る必要があるのです?」
「では、裁判の結果について、『声』はお前に何か言ったのか?」
「裁判に関することは、主(しゅ)の御意志にお任せしています。主の御意志が実現する日時は分かりません」
 ジャンヌの答えに、思わずピエールの頬がピクリと動いた。