「どうしたの? まさか、又、貴女に此処で何かさせようとでもいうの?」
 心配そうにそう尋ねるマルグリットに、シモーヌは黙って手紙を見せた。
 そこには、単語が十個程書かれているだけだった。
「これって……?」
 単語自体は「貞節」だのといった、新婚の娘に送ってもおかしくないものだったが、単語だけというのはどう考えても変だった。
「分かりません。ちょっと紙とペンをお借りしてもよろしいですか?」
「いいけれど……」
 そう言いながらマルグリットが机の所に行き、紙とペンを用意すると、シモーヌはホッとした笑みを見せた。
「ありがとうございます。ピエール様がまだ私の部屋でお休みなので、助かります」
 彼女はそう言うと、傍にあった机の上で何かを書き始めた。
「そう。それは良かったわ……」
 そう返事をしながら、マルグリットは彼女の顔がまだ少し赤いことに気付いていた。
 ──ということは、本当にうまくいきそうなのね。まぁ、最初のうちは色々問題もあるでしょうけど、きっと私とアルテュールよりはうまくいくはずだわ。
 そのアルテュールからの手紙を解読しているシモーヌを見ながらマルグリットがそう思った時だった。顔を上げたシモーヌと目が合ったのは。
「何て書いてあったの?」
 顔をしかめるシモーヌに、マルグリットがそう尋ねると、彼女は少し戸惑いながら答えた。
「乙女を……救出出来なかった、と……」
「え……?」
 一瞬、シモーヌが行ったことが分からず、マルグリットは目を丸くした。
「ちょっと待って! あの人は、乙女を助けようとしたってこと?」
「厳密に言うと、違います。実際、救出しようとなさったのは、ラ・イール様ですので」
「じゃあ、それがあの人の命令だったの?」
「いえ、独断だったようです。短い文ですので、そこまで詳しく書いてはありませんが、私自身、実際ラ・イール様にお会いしたこともありますので、直情的な方だということは、分かっています」
「それで、独断だと?」
「はい」
 シモーヌは頷くと、続けた。