「ふふ、貴女がそんなに困った表情をするなんてね」
「意地悪なこと、言わないで下さい! 結婚も初めて初めてですし、年下の男の子が相手だったなんて、初めてだったんですから!」
「まぁ、『男の子』だったの? 『男性』じゃなくて?」
「それは、その……」
 シモーヌはそう言いかけると、耳まで真っ赤になってうつむいた。
 心配しなくても、案外うまくいっているようね。
 その様子を見てマルグリットは心の中でそう呟き、心からの笑みを浮かべた。
「まぁ、そういうことなら、私はもう帰ることにしましょう」
「は、母上!」
「新婚さんのお邪魔をしてはいけないでしょう?」
 そう言ってマルグリットが珍しくニヤリとすると、シモーヌは再び耳まで真っ赤になってうつむいた。
「ですが……あんなに嫉妬深いものなんでしょうか?」
「え? ひょっとして、此処にも来るなと言われたの?」
 マルグリットの言葉にシモーヌが頷くと、彼女は溜息をついた。
「まぁ、昨日、貴女に見蕩れているようだったから、大事にはしてくれるだろうと思っていたけれど、母親にまで嫉妬するのは、ちょっと苦労しそうね」
「やっぱり、そうですか……」
 シモーヌはそう言うと、肩を落とした。
 マルグリットはそんな態度をしながらも、彼女の顔がまだ赤いことに気付いていた。
 苦労すると分かっていても、嫌いではないのよね、きっと。なら、やっぱり、早く二人きりにすべきね。
 マルグリットは心の中でそう呟くと、ベッドから起き上がった。
「大丈夫ですか?」
 思わずそう言いながら駆け寄る、シモーヌ。
「大丈夫よ。今日はもう帰れそうな位、調子が良いのだから」
「そ、そんなことをおっしゃらずに、もう少しごゆっくりなさった方が……」
「だ・め・よ! せっかく本当に両思いになれそうな結婚だというのに、恥ずかしがって逃げてちゃ!」
「そ、そのようなことは……」
「とにかく! 私はアルテュールからの手紙を渡したら、帰るわ!」
「父上からの手紙、ですか?」
 そう言うシモーヌのひょうじょうは、いつもの凛とした感じに戻っていた。
「ええ」
 そう言うと、マルグリットはリッシモンの封蝋(ふうろう)が押された手紙を手渡した。
「これは……」
 それを受け取ってすぐ封を開けたシモーヌは、そう言うと顔色を変えた。先程よりも気のせいか、少し険しい表情になっていた。