「お目覚めですか、ピエール様? ならば、私はこれで失礼致します」
 そう言って軽く礼をし、出て行こうとする新妻に、ピエールは慌てて手を伸ばした。
「待て! どこに行こうと……痛っ!」
 彼女を止めようとして頭を押さえた彼に、白い腕が伸びた。
「え……?」
 驚く彼の目の前にh、白く細い指があった。
「熱は無いようですから、お酒を飲み過ぎたのでしょう。水ならありますが、お飲みになりますか?」
 落ち着いた声でシモーヌがそう尋ねると、ピエールは小さく首を横に振った。
「いや、よい。こうしているだけで気持ちがいいからな」
 そう言うと、ピエールは自分の額に当てられた妻の手をそっと握った。
「ですが、このままでは何も出来ません。冷やした布でも持ってきますので……」
「分からない奴だな!」
 ピエールはそう言うと、妻の腕を強引に引っ張った。
「きゃっ!」
 そう小さく叫ぶと、シモーヌはピエールの上に倒れ込んでいた。
「何をなさるのです! 頭が痛いのではなかったのですか?」
「そなたが傍に居てくれれば、平気だ」
 そう言うと、ピエールは愛しげにシモーヌの髪を手ですくい、口づけをした。
「まぁ、随分口が上手になられたのですね。たった一晩で」
「悪いか? もう心身共に夫婦となったのだ。遠慮は要らないだろう?」
「そういうことでしたら……」
 シモーヌがそう言いながら目を輝かせると、ピエールは目を閉じて顔を近付けてきたが、シモーヌはそれをすっとよけ、さっと立ち上がった。
「ど、どうしたというのだ?」
「遠慮は無用とのことですので、母の所に参ろうと思います。では……」
「待てっ!」
 そう叫ぶと、ピエールは立ち上がり、シモーヌの腕を掴んだ。
「うっ!」
 だが、急に立ち上がったからか、彼はそう叫んで頭を押さえた。
「無理をなさるからですよ」
 それでもしっかりシモーヌの腕を掴んだままの彼に近付き、彼女がそう言うと、若い夫はムッとした表情になった。