「年下……なのですか?」
 その頃、そのリッシモン邸では、シモーヌがそう言って目を丸くしていた。
「ええ。年上の方が良かったかしら?」
 居間に入って来たシモーヌに、自ら紅茶を用意しながらマルグリットがそう尋ねると、シモーヌは少し困った表情で彼女の前に座った。
「いえ、驚いただけです。普通はもっと年上の方がお相手になると聞いていましたので……」
「そうね。陛下がお薦めになられた割には、年が近くて意外だったわ、私も」
「まぁ、そんなに年が近いのですか? 年下なのに?」
 シモーヌが目を丸くしながらそう尋ねると、マルグリットは微笑んだ。
「一五歳だそうよ。貴女はもうすぐ一八になるから、三歳だけ下ということになるわね。それくらいなら、問題無いでしょう?」
「まぁ、それは、お会いしてみないことには何とも言えませんが……。陛下のお勧めして下さった方なのですもの。私がお断りすることなどありえませんわ」
 マルグリットはその言葉に頷くと、哀しげに微笑んだ。
「貴女だけは女の幸せを掴んで欲しい。その為なら力になろうと思っていたのに、こんなことになってしまって、本当にごめんなさいね……」
「いえ、お気になさらず。私は、どこでも、私なりにやっていくつもりですから」
 シモーヌがそう言って微笑むと、マルグリットは何故か少し困った表情になった。
「まぁ、私なんかより強くて、それなりにはやっていけるだろうとは思うわ。でも……無理をしているのではなくて?」
「いえ、無理などしていません。第一、そんなに年が近い方でしたら、本当に夫婦となれるかもしれませんもの。かえって楽しみなのです」
「そう……ね。そうなればいいわね……」
 そう呟くように言うと、マルグリットは庭に目を遣った。
 だが、その瞳は視線の先の庭ではなく、どこか遠くを見ているようだった。まるで、自分が最初に王家に嫁いだ時のことでも思い出しているかのように……。
「そうなるよう、努力致します」
 そう言って微笑んだシモーヌは、その「三歳下」というのが、先日のジャンヌ・ド・バールと同じ年で、体はまだ大人になりきっていないのに、恋愛や夜のことなどには興味を持ち始める年齢だということをすっかり忘れていたーー。