「なぁ、ジル、お前も行かんか?」
 そんなジル・ド・レイに、ニッと笑うと、ラ・イールはそう尋ねた。
「断る! 負け戦に関わる気は無い!」
「負け戦だと? 乙女の救出戦だぞ?」
「だから、その時点で既に負けているではないか!」
「何を言う! 俺が勝ちに転じてみせると言ったであろうが!」
 再び胸を張ってラ・イールがそう言うと、ジル・ド・レイは溜息をついた。
「お前の敬愛するリッシモンが居ない時、お前が勝ったのを見たことがないのだがな?」
 ジルのその言葉に、ラ・イールは目を丸くした。
「あー……確かに、言われてみれば、そうかもしれんな。だが、何事にも例外というものがある。今度のがきっと、そうなるさ!」
 ラ・イールはそう言うと、再びニッと笑った。
 ……この自信と楽観主義は、一体どこからくるんだ? まぁ、兵士達の信頼は得ているようだから、それこそ先祖のベルトラン・デュ・ゲクランのように奇襲を実行出来る力量さえあれば、本当に勝てるやもしれんが……今のこやつにそれを期待するのは無理だな……。
 ジル・ド・レイがそんなことを思いながら再び溜息をつくと、ラ・イールはニッと笑ったまま、彼の肩をポンと叩いた。
「まぁ、そんなに心配するな、ジル。リッシモン殿とも連絡をとっておる。悪いようにはならんさ!」
 何だと!
 ラ・イールの言葉に、ジルの顔から血の気が引いた。
 あいつは先日、陛下の怒りを買って、もう二度と戦に加わるなと念を押されたはず。なのに、そんな奴と連絡をとって、乙女を救出するだと? まぁ……あいつが居れば、乙女は救出出来るかもしれんが、又、陛下の逆鱗にふれかねんぞ! こやつ、本当にそんなことが分かっておらんのか?
 そう思いながらジルがラ・イールを見ると、彼はいつも通り、ニッと笑った。
「俺は行かんぞ! 此処でお前が口にしたことも、総て聞かなかったことにする!」
 ジルはそう言うと、席をたった。
「え……? お、おい、ジル!」
 ラ・イールは驚いてそう言い、呼び止めようとしたが、彼が一度も振り返らずにそこを後にするのを見ると、すぐに諦めてしまった。それが彼の最大限の思いやりであり、忠告であることに、全く気付きもせずに一一。