「あ、あの、母上、お加減は宜しいのですか?」
「調子が悪そうに見える?」
「い、いえ、全く……」
 そう言うしかなかった。いつもなら、こうなる前に途中で気分が悪くなったりしていたのに、今回は大丈夫そうだったので。
「でしょう? だから、早く……」
「あ、あの! お薬をお飲みになられなくて宜しいのですか?」
 シモーヌのその言葉に、何故かマルグリットの顔色が変わった。
「母上……?」
 突然暗い顔でむこうを向いたマルグリットに驚きながらシモーヌがその顔を横からそっと覗き込むと、彼女は自嘲じみた笑みを見せた。
「私がこんなに調子がいいのはね、そのお薬を止めたからなのよ」
「え……?」
 普通は薬を飲めば良くなるはずなのに、やめると調子がよくなるということが分からず、シモーヌが思わず目を丸くすると、彼女は悲しそうな表情で続けた。
「私が子供を望み、色々試していたのは、知っているわね?」
「はい………」
 そう返事をして、シモーヌはハッとした。
「まさか……」
 以前、ジャンヌ・ダルクが捕まったと聞いた時、子供を授かる為に東洋の薬も試したが駄目だったという話を聞いたことを思い出し、シモーヌの顔から血の気が引いた。
「そんなにお強いお薬を服用なさっておられたのですか?」
「強いというか……女性特有の周期をずらすものだったらしいのだけれど、どうも私の体には合わなかったようでね……」
 そう言うと、マルグリットは咳き込んだ。
「大丈夫ですか? 少し横になられた方が宜しいのではありませんか?」
 シモーヌはそう言うと、座っていたソファから立ち上がり、彼女をそこに横にならせた。
「横にはなるけど、話は聞くわよ?」
 マルグリットはそう言いながらシモーヌの手をぎゅっと握り、放そうとはしなかった。
「分かりました。ちゃんとお話致します。ですから、水くらいはお飲み下さいね」
 シモーヌはそう言うと、傍の机の上の水差しからカップに水を注いだ。
 ……それにしても、母上がそのようにお辛い想いをされてまで、子供を授かろうとされていたなんて……。バートと付き合いだしてすぐ、しばらく月のものが止まっていたことは、秘密にしておいた方が良さそうね。まぁ、結局妊娠してはいなかったみたいなのだけれど、今となっては、バートに似た男の子なら、欲しかったかも……。