「ああ、もう、折角泣かなくなったって喜んでいたら、コレだもの。しっかりしなさい!」
「大丈夫です。だって、嬉し涙なのですから……」
 シモーヌのその言葉に、マルグリットは微笑みながら彼女を抱きしめた。
「良かった……。もうあんな想いはしたくないもの」
「すみませんでした、母上」
「あら、本当にそう思っているの、シモーヌ?」
 マルグリットはそう言うと、その両瞳を悪戯っぽく輝かせた。
「は、はい……」
 シモーヌが目を丸くしながら頷くと、彼女は珍しくにやりとした。
「じゃあ、馴れ初めを教えてもらおうかしら?」
「な、馴れ初めですか? それは、私が乙女に百合を差し入れ出来ないかと思いながらうろついていた所に、バール嬢が……」
「ああ、もう! 違うわよ! 同性の話なんかに興味は無いわ!」
「え……?」
 今までの話の流れからして、それしか無いと思っていたシモーヌは、目を丸くしてマルグリットを見詰めた。
「彼との出会いよ!」
「彼……?」
「もう、ニブイわね! 貴女の最愛の人との馴れ初めよ!」
 その言葉に、見る見るうちに真っ赤になる、シモーヌ。
「バ、バートのことですか?」
「あら、バートっていうの?」
 そう言いながらマルグリットはニヤリとすると、シモーヌの手を引っ張って、ソファに座らせた。
 勿論、彼女はその隣に座る。
「それで? 馴れ初めはどんなだったの? ヨウジイから二度もその方が貴女を助けたとは聞いたのだけれど……」
 目を輝かせながらそう言うマルグリットに、シモーヌは少し引きつった笑みを浮かべた。
「大体、そんな感じです」
「そうなの……。でも、待って。まさか、それで終わりにするつもりじゃないわよね?」
「え……。やっぱり、駄目ですか?」
「駄目に決まってるでしょ! 大体、アルテュールどころか、ヨウジイでさえも知っているというのに、女親の私が知らないなんて、納得いかないわ!」
「はぁ……。ですが、ヨウジイは何度か会って話をしたことがあるものの、父上は名前をご存じなだけですよ?」
「男親はそんなものでいいのよ!」
 マルグリットはそういうと、自分の言葉を自ら肯定するかのように、何度も頷いた。
「そ、そういうものですか……?」
「ええ、そういうものよ。だから、早く教えて!」
 瞳をキラキラ輝かせながらそう言うマルグリットに、シモーヌは苦笑しながら距離をとった。