「まぁ、これ位で顔を真っ赤にされるなんて、シモン様って意外とウブなのですね! 私としては、その位の方が安心ですが。うふふふふ」
 少女はそう言うと、笑いながらむこうに行ってしまった。
「じ、純情……。あんな子供にそんなことを言われるとは……」
 シモーヌは小さな声でそう呟くと、肩を落とした。
「い、いや、それより、大事なことを聞き忘れたような……」
 ジャンヌ・ダルクが既に移送されたのか否か、まだなら、何時頃なのかの情報を聞き出せずにいたことに気付き、シモーヌは再び肩を落とした。
 ……いずれにしても、もうこの格好、これ以上はしない方がいいわね。……というか、正直、したくないわ! もうこれ以上、耐えられない! ……でも、あの父上のことだもの、情報を聞き出すまで頑張れって言うにきまってるわね。だとすれば、ここは一つ……。

「ぷ! うふふふふ! ……あ、ごめんなさい! でも、その……おかしくて……」
 それからしばらく後、シモーヌは、かつらの中に入れていた金髪を後ろでまとめ、お気に入りの青いドレス姿で、義理の母、マルグリットの部屋にいた。彼女にしっかり笑われながら。
「もう、そんなに笑わないで下さい! 私はもうこれ以上耐えられなくて、此処に来たんですから!」
「アルテュールにはそのことを言ったの?」
「バール嬢に男と思われて、惚れられているのはご存じですよ。この間、報告しましたから」
「それでも、又、送り込んだのね」
「乙女が移送されたか否か等の情報を聞き出す為に、です」
 シモーヌのその言葉に、マルグリットは溜息をついて、何度も首を左右に振った。
「あの人にも呆れたわ! まだ幼い、純真無垢な少女まで利用するなんて!」
「純真無垢……」
 シモーヌはその言葉を繰り返すと、顔をしかめた。
 その脳裏には、先日、ジャンヌ・ド・バールに言われた言葉がよみがえっていた――。

『これ位で顔を真っ赤にされるなんて、シモン様って、純情なのですね!』
 ――その言葉を彼女の口から聞くまでは、シモーヌも彼女のことを純真無垢だと思っていた。