「やっぱり、私のような子供には、頂けないのですね?」
「は……?」
 薄々好意を持たれているようだと思ってはいたものの、はっきり手に持っている百合をくれ、という意味のことを言われると、流石にシモーヌも面食らった。
 何言ってるの、この子……? 会ったばかりの人から花を貰おうって、どういう教育されてるのよ? もし私が悪人だったら、どうするつもりなのかしら?
 そんなことを思うシモーヌの表情は、知らず知らずのうちに苦々しいものになっていたようで、少女は泣きそうな表情になっていた。
「やっぱり、そうなんだ……」
「あ、あの! ちょっと待って! 私は、君の名前も知らないんだが!」
 シモーヌのその言葉に、少女はほっとしたように微笑んだ。
 まるで花が咲いたようとは、このことだなと同じ女性ながら、シモーヌは心の中でそう思った。
「失礼しました。私は、ジャンヌ・ド・バールと申します」
「バール?」
 シモーヌがそう言いながら、何処かで聴いたことがあると思っていると、少女が自分からこう言った。
「ジャン・ド・リュクサンブールの娘です」
「何と!」
 オルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルクその人を捕えている城の主の娘と聞き、シモーヌは目を丸くしながら少女を見詰めた。
「やはり、父の名を出すと、分かって頂けるのですね」
 少女はそう言って微笑んだが、どことなく寂しげで、自嘲じみているように見えた。
「まぁ……オルレアンの乙女が捕らわれているのではな……」
「そうですよね……」
 少女はそう言うと、肩を落とした。
「あの……私がこんなことを言うのも変かもしれないが、見ず知らずの者に、そのように易々と自分の素性を明らかにするのは、少々危険過ぎやしないか?」
「危険?」
「此処は、まだオルレアンを解放した乙女を慕う者も多い。それなのに、そうたやすく乙女を捕らえている城の主の娘と明かすのは……」
「利用されるということですか?」
 少女ジャンヌの言葉に、シモーヌは頷いた。
「少しそなたを脅して乙女に会わせろというのなら、まだ良い。拉致して、乙女解放の為の取引の材料に使おうとする者とて、おろう」
「貴方も、ですか?」
 真っ直ぐ瞳(め)を見ながらそう尋ねるジャンヌに、シモーヌは答えに詰まってしまった。