「何が言いたい?」
「いえ、別に。仲が宜しいようで、娘としては安心だというだけですわ」
「お前は……! 子供のくせに、余計なことを申すでない!」
 ムッとしたままのアルテュールがそう言うと、シモーヌは笑った。
「あら? 先程は私のことを大人とおっしゃっておいででしたよ?」
「そういう意味の『子供』ではない! 『娘』という意味の『子供』だ!」
「まぁ、じゃあ、その娘にあんまり心配させないで下さいな、父上!」
「ああ、もう、分かった、分かった!」
 アルテュールはそう言うと、観念したかのように手を挙げた。
「分かったから、お前はもうそのバール嬢の元に戻りなさい」
 アルテュールのその言葉に、シモーヌは本当に嫌そうに顔をしかめた。
「又、男装して騙(だま)すのですか?」
「それしかなかろう? 乙女のごく近くまで行けて、信用出来る者が他にいるか?」
「ジェイコブ修道士はどうなのです?」
 シモーヌが修道士姿のヨウジイを見ながらそう尋ねると、アルテュールは腕組みをして、何かを考える表情になった。
「まだ見習いだぞ? すぐに乙女の傍まで行けるようになるとは思えんな」
「それに、私は黄色人種の中国人ですし」
 ジェイコブのその言葉に、アルテュールは思わず彼を見た。
「ヨウ……いや、ジェイコブ、自分の人種等をその様に言うものではない! 確かに陛下の周辺は特にそんなものや家柄等にこだわる輩(やから)が多いが、あやつらはそれと金でしか物を図れぬような二流のものなのだ。気にせずともよい! それに、私は存じておるぞ。そなたが誰よりも有能で、忠実だということを」
「ありがとうございます」
 そう言うジェイコブの両瞳には、涙が溜まっていた。
「あ、あのう……」
 そんな二人の姿を見て、シモーヌは遠慮がちに口を開いた。気のせいか、少し後ろに下がった気がした。
「私はお邪魔なようですので、もう行きますね」
「コンピエーニュにか?」
 そう尋ねたのは、アルテュールだった。