「本当に立ち直ったのだな?」
「ええ。随分自分を責めましたが、乙女の危機と母上にお聞きし、目が覚めましたわ、完全に」
「乙女の力は、偉大だな」
 そう言ってアルテュールがジェイコブを見て微笑むと、彼も微笑んだ。少しほっとしたような表情だった。
「それはそうでしょう。あの年で、最初は読み書きもロクにお出来にならなかったのに戦場に立たれ、フランス軍の象徴になられたんですから」
「うむ、確かに。流石は、神のお告げを受けたというだけのことはある」
「なのに、どうしてお見捨てになられるのでしょうか……」
 そう言って溜息をつくシモーヌに、アルテュールとジェイコブは再び彼女を心配そうな表情で見詰めた。
「シモーヌ、それは……」
「分かっております。あとは、我々人間がすべきこと。乙女がその身を危険にさらしてまでもフランスと我々を導いてくれた分は、我々がその身をもってお返しすべきだということなのでしょう」
「分かっておるのだな」
 アルテュールが落ち着いた声でそう言うと、彼女は頷いた。
「はい、そこまでは。ですが、どうしても『神とは何か。どういう存在なのか』とも問いたくなってしまうのです」
 シモーヌがそう言って困った表情をすると、アルテュールはジェイコブと顔を見合わせた。
「それは、私が考えておきましょう。これでも一応、修道士のはしくれですし。まぁ、まだ見習いですが」
 そして、そう言ったのは、ジェイコブだった。
「数千年をかけても哲学者が明確な答えを示せなかった問いだぞ?」
 アルテュールはそう言ったものの、その表情は意外と明るかった。シモーヌの落ち込んだ顔は見たくないという想いが二人とも同じだったからかもしれない。
「何十年かかろうとも、何か分かりましたら、ご報告にあがります。ですから、お嬢様は、今、お嬢様にしか出来ないことをお願い致します」
「私にしか出来ないこと……?」
 シモーヌはその言葉を繰り返すと、宙を見た。
「左様でございます」
「乙女を助けろってことよね、勿論?」
「はい」
 ジェイコブが頷くと、シモーヌは腕を組んだ。形のいい、大きな、胸がドレスの開いた胸元からちらりと見えるが、一人は義理でも父であり、一人は見習いといえど修道士なので、そんな所に視線を釘付けにしたりはしなかった。
「近々、又移送されるのであったな?」
 アルテュールのその言葉に、シモーヌは頷いた。