「ええ。だから、貴女の力を借りたいと思ったの。愛しい人を亡くした後で、大変だと分かっていたのだけれど……」
 マルグリットはそう言うと、シモーヌの手をギュッと握った。
「本当は、私自身が行ければ、良いのだけれど、私の体のことは知っているでしょう? 途中で気分が悪くなれば、足手纏いになるだけですもの。それに、アルテュールと話をしているところを聞いた感じでは、乙女とも顔見知りな気がしたのだけれど、違う?」
「はい。何度かお会いしたこともありますし、ご実家のドン・レミにも行ったことがあります」
「矢張りね! そうだと思ったのよ! 貴方達を見ていて」
 嬉しそうにそう言うマルグリットに、シモーヌは少し困った表情になった。
「義姉(あね)……いえ、母上。そんなに父上のことをご覧になられておられるのでしたら、もう少し父上と話し合われて……」
「子供は難しいと言われたわ……」
 目を逸らし、うつむきながらそう言うマルグリットの言葉に、シモーヌは目を丸くした。
「え……?」
「子供が出来れば、あの人との仲ももう少し良くなると思ったの。だから、医者にも何度も相談したのよ。ヨウジイにも東洋のお薬を取り寄せてもらったし……。でもね、子供が出来にくい体なのは間違いないと言われたわ。それに、万が一出来ても、産めるかどうかとも……」
「それ……は……その……」
 シモーヌが困った表情になると、マルグリットは悲しげな笑みを浮かべた。
「ごめんなさいね。貴女にこんな話をして」
「いえ……」
「私に子供が出来ないからこそ、貴女のことを大事にしたい。幸せになって欲しいって伝えたかったのに、こんな話をしてしまって……」
「いえ、ありがたいと思っています。本来なら、私生児がリッシモンの名を継ぐことなど叶わぬことですのに……」
「シモーヌ、それはいい加減、やめなさい」
 マルグリットがシモーヌの手をギュッと握ってそう言うと、彼女は目を丸くしてマルグリットを見た。
「え?」
「私生児って自分のことを言うのは、もう止めなさい! 私はね、貴女はもうどこに出しても恥ずかしくないレディーになっていると思うわ。それどころか、アルテュールの命を受けて、乙女を密かに助けていたのでしょう? むしろ、誇らしいくらいよ!」
「母上……」
「だから、胸を張りなさい。貴女は、誰が何と言おうと、リッシモンの名に恥じぬ娘です。それは、フランス王家とも縁(ゆかり)のあったこの私が保証します!」
「ありがとうございます……」
 そう言うシモーヌの目には、再び涙が溢れてきていた。
「あら、嫌だわ。又、泣かしてしまったわ。折角、乙女のことをお願いしようと思っていたのに」
 マルグリットがそう言いながらシモーヌの涙をハンカチで拭くと、彼女は微笑んだ。