「………落ち着いた?」
 しばらくして、シモーヌが泣き止むと、マルグリットはそう言いながらシモーヌの髪を撫でた。
 無造作に下に垂らされているものの、まだ一八歳という年齢だからか、綺麗なウェーブが顔にかかり、その顔立ちを優しく、可愛いものに見せており、陽の光が当たると時折輝いているようにも見えた。
「はい……」
「じゃあ、もう乙女の話をしても大丈夫ね?」
「乙女……?」
 そう尋ねるシモーヌの瞳は、まだ少しぼんやりとしていた。
「ええ。オルレアンの乙女よ。貴女の大事な人も守っていたでしょう? 今度は、貴女が守ってあげられないかしら?」
「私が……守る……?」
「ええ。乙女はね、先日、悪い人達に捕まってしまったのよ」
「悪い人達に捕まった……?」
 マルグリットの言葉を繰り返すシモーヌの瞳に少し驚きの表情が加わったかと思うと、しばらくするとマルグリットを真っ直ぐ見るようになったのだった。
「あのね、貴女が橋の上から助け出された後で、ブルゴーニュ公の配下に捕まって、今はボールヴォワールという所にいるのよ」
「ブルゴーニュ公……ボールヴォワール……」
 その単語を繰り返したシモーヌの瞳が、キラリと光った気がした。
「陛下は……?」
 そう思った次の瞬間、いつもの聡明そうな表情で、彼女はそう尋ねていた。
「シャルル七世現国王陛下のこと?」
 マルグリットがそう尋ねると、シモーヌは頷いた。
「はい。陛下は、乙女のことをお助けになられないのでしょうか?」
「残念ながら、ロワール川沿岸に滞在なさっておられるというのに、何の動きも無いそうよ。命令も何も下されておられないとか……」
「では、乙女は……」
 そう言ってシモーヌが顔をしかめると、マルグリットも悲しげな表情になった。
「今までオルレアンをはじめとして、フランスで手柄をたててきたということは、イギリス軍やブルゴーニュ公にとっては、目の上のたんこぶでしかなかったはず。タダで済むとは、とても思えないわね。捕えられてすぐ、公ご自身が確かめに言ったという噂もあるの。酷いことにならなければいいのだけれど……」
「それでも……それでも、陛下は動かれないのですか?」