「何? 乙女が戻って来る、だと?」
 部下から「オルレアンの乙女」こと、ジャンヌ・ダルクがコンピエーニュに戻って来るという報告を聞いて、守備隊帳のギヨーム・ド・フラヴィーは顔をしかめた。
「もう北の要塞を落としたというのか……」
 彼が小さな声で呟くようにそう言うと、アランは困った表情になった。
「いえ……一旦戻り、折りを見てもう一度攻めるそうです。敵に救援が来たとかで……」
「ほう!」
 そう言うギヨームの瞳は、光り輝いていた。
「それで、乙女は今、どこなのだ? まさか、もう入城したのではあるまいな?」
「いえ、今回は殿(しんがり)を務めておられるようで、まだ中には……」
「そうか。丁度いい」
 そう言うと、ギヨームはニヤリとした。
「閉じよ!」
 そして、次の瞬間、大声でそう叫んだのだった。
「お、お待ち下さい、ギヨーム様! 閉じるとは、まさか……」
「門を閉じよと言っている! ええい、お前では話にならんわ!」
 彼はそう言うと、アランを押しのけ、自分で城門の方まで歩いて行った。
「ギヨーム様!」
「門を閉じよ! 今より誰も中に入れてはならん!」
 アランとギヨームがそう叫んだのは、ほぼ同時だった。
「駄目だ! 今、閉めれば、乙女が中に入れない!」
 アランはそう叫んで、止めようとしたが、急に閉じられてきた門に兵士達が殺到し、彼は人の波に押されて傍に近付けなかった。
「そんな! 乙女! どうか、どうか、ご無事で……!」
 人の波にもまれながら、アランは門の方に手を伸ばし、そう叫び続けた。
「門を閉める、ですって? まだ外に仲間がいるのよ! それに、守りだけなら、一番内側の扉だけでも充分ではないですか!」
 負傷者の手当てをしていた修道女姿のシモーヌが、自ら門を閉めようと扉の仕掛けを動かすギヨームに近寄りそう言うと、彼は鼻でせせら笑った。