「まぁ、シモーヌさんとバルテルミさんが?」
 そんな二人の様子を知らないジャンヌ・ダルクは、ピエールにそう聞き返しながら、満面に笑みを浮かべた。
「そうだ。これで、何とか仲直りされるだろう」
 ピエールも笑みを浮かべてそう言うと、ジャンヌは何度も頷いた。
「良かったわ! あのお二人には、仲睦まじいままでいて頂きたいもの!」
「そうだな。俺達がドン・レミで初めてお会いした時がそうだったもんな」
「そうよ! あれから、色んなことがあったわ。知り合ったひとたちもたくさん死んでしまった……」
 ジャンヌはそういうと、うつむいた。
 先日、自分を庇って亡くなった、小姓のレーモンのことを思い出していたのかもしれない。
「でもね、兄さん、だからこそ、シモーヌさん達には仲良くして欲しいのよ。そういう幸せがあるからこそ、人間は短い生でも精一杯生きることが出来る。そう思うから……」
「ジャンヌ……」
 妹の名を呟く兄の目には、涙が溢れてきていた。
 他人の女としての幸せは祈れても、彼女自身は叶わないどころか、殉教のお告げを受けていた。それが不憫だったのだろう。
「兄さん、そんな泣きそうな表情しないで。私のことを心配してくれてるんだろうけど、大丈夫だから」
「大丈夫って、お前はこの間、殉教……」
「その話はもう二度とするなって言ったでしょ! 兄さん自身が」
 唇に指を当て、静かにしろというジャスチャーをしながらそう言うと、兄の目から涙がこぼれた。
「ほら、涙を拭いて、兄さん。兄さんが泣いていると、私に何かあったんじゃないかって、他の人が心配するわ」
「だが、ジャンヌ……」
「私なら大丈夫って言ってるでしょ! シモーヌさんだって、駆けつけてくれたんだし……」
 彼女のその言葉に、兄の表情が暗くなった。
「そのことなんだが、シモーヌさんは一足先に修道女様達とコンピエーニュに向かわれるそうだ」
「そう……。物資も足りなくなっているでしょうから、しょうがないわね」
「それもあるだろうが、その……守備隊長がブルゴーニュ派らしいのだ」
「え! そんな! だって、市民からは国王陛下への忠誠を示す手紙が来ていたのよ?」
「一枚岩ではないということだな。現に、貴族の方々の中にも、ブルゴーニュ公やイギリス寄りの方がおられるしな」
「そうね……」
 ジャンヌはそう言うと、溜息をついた。
「きっとシモーヌさんのことだもの、その守備隊長に邪魔されて入城出来ない、なんてことにならないようにと動いて下さっているのよね」
「ああ。きっと、そうだよ」
 ピエールはそう言うと、微笑んだ。まさかそのコンピエーニュでジャンヌが囚われることになるとは、思いもせずに。