「はっきり答えぬか!」
 シャルルがそう叫んで彼を睨みつけると、彼は床に視線を落としたままで答えた。
「は、はい! その……申し訳ございません。存じておりました……」
「やはり、そうか。何故、それを余に隠していた?」
「お、弟が止められると思ったからでございます! 何としても陛下の御領地に手をつけることだけは阻止せよと、何度も手紙を出しておりましたので……」
「それで、この失態か!」
 そう叫ぶと、シャルルは机の上の印を手に取った。
 それを投げつけられると思ったラ・トレムイユは、うつむきながら数歩、後ろに下がった。
「も、申し訳ございません!」
 そう言いながら。
「フン!」
 そう言うと、シャルルは手にしていたそれを窓に投げつけた。カシャンという音がし、窓は割れ、慌てて中に入って来た召使が中に入って来て掃除を始めた。
 てっきり自分に当てられると思っていたラ・トレムイユは、一瞬ホッとした表情を見せたが、そんな彼にシャルルは尋ねた。厳しい表情で。
「今、あやつの軍はどこまで進んでおる?」
「コンピエーニュと聞いております」
「何だと! そんな所まで追い詰められておるのか!」
 シャルルは大きな声でそう言うと、ドンと床を蹴り、溜息をついた。
「兵を出せ! 早くな!」
「はっ! 既に向かわせております!」
「うむ」
「あの……陛下……」
「何だ? まだ何かあるのか!」
 露骨に顔をしかめながらそう言うシャルルに、ラ・トレムイユはこう言った。
「あの乙女も、ここを発ちましてございます……」
 その頃、その「乙女」こと、ジャンヌ・ダルクは、ラ・トレムイユの報告通り、既に城を出て、コンピエーニュに向かっていた。
 その横には、綺麗な鎧を身にまとった長身の美少女もいた。