「まぁ、又余計なことを言ったのね、ヨウジイ?」
 シモーヌは二人の様子を見て、そう言いながら彼を睨んだ。
「いえ、私はその……あのバートとかいう男とお嬢様がお別れされたらしいとしか……」
「それだけ言えば充分でしょ! もう余計なことは言わないでちょうだい!」
「はい……」
 思わずシュンとするヨウジイを見て、アルテュールは苦笑した。
「まぁ、そう怒るな。お前のことを心配した私が尋ねたというのもあるのだからな」
「だからといって、何でも報告するというのはどうかと思います。プライベートなことですから」
 まだムッとした表情のまま、シモーヌがそう言うと、アルテュールは溜息をついた。
「分かった、分かった! もうせぬ! 今回はお前に縁談がきたゆえ、少し調べただけだしな!」
「縁談?」
 その言葉を繰り返すシモーヌの顔が、珍しく引き攣った。
 現代の日本では「縁談」といっても断ることが出来るが、この当時はほぼ結婚が決まるもので、相手によっては結婚した後に恋愛を経験するということもあった。その「恋愛」の「相手」は、結婚相手以外の場合もあるが。
「どなたなのです、そのお相手の方というのは?」
「貴族だそうだ。フランスのな。それ以上の詳しいことは、まだ分からぬ。先日、陛下から打診があったばかりなのでな」
「陛下から、ですか?」
 シモーヌはその言葉を繰り返すと、顔を引き攣らせながら兄を見た。
「では、相手はブルゴーニュ派ですね? アランソン公等ではなく」
「ああ、そうだろうな」
 そう答えると、アルテュールは妹を見た。
「アランソン公ならよいのか、シモーヌ?」
「いえ、例えですよ。第一、あの方は私より乙女の方がいいと思ってらっしゃいますよ」
「ほう……」
 そう小さく言うと、彼は妹をじっと見詰めた。
「まぁ、どちらにしても、お前がリッシモンの名を正式に名乗れるようになってから、だな」
「どういうことですか? 今でも必要があれば、リッシモンを名乗っていますが?」
「それは、私の名を出すということだろう? そうではなく、私の正式な後継者となる、ということだ」
「後継者!」
 シモーヌがそう言いながら目を丸くし、ヨウジイを見ると、彼も初耳だったのか、目を丸くしながら首を横に振ったのだった。