「休戦だと……?」
 ランスでの戴冠式の後、民衆の人気は高まり、小さな町であっても「フランス国王シャルル七世万歳!」との叫びが湧き上がるまでになっていた。
 もちろん、地方からも続々と志願兵が集まってきていた。
 ――そんな中での突然の休戦の知らせに、ジャンヌをはじめ、アランソン公やラ・イールも目を丸くした。
「何故、こんな時期に……。まさか、陛下はもう私を……」
 呟くようにそう言うジャンヌは、もうその場に立っていられなくなり、壁に手をついたが、それでも体を支えきれなくなり、その場に倒れこんでしまったのだった。
「乙女!」
 驚いたアランソン公がそう叫んで彼女に駆け寄ると、彼女は青い顔のまま、作り笑顔を浮かべた。
「だ、大丈夫です……」
「大丈夫なものか! 休み給え! 我々とてショックだというのに、ここまで導いてきてくれたそなたがショックじゃないわけないだろう!」
「そうですね……。では、お言葉に甘えて、少し休ませて頂きます……」
 ジャンヌはうつむきながらそう言ったが、アランソン公はその頬に涙がつたうのを見逃さなかった。
「乙女……」
 そう呟き、彼女の後姿を見送る彼の顔も、苦悩で歪んでいた。他の彼女の信奉者たちも皆……。

「休戦でございますか? 士気が上がり、陛下を称える声も高まっているというこの時期に、ですか?」
 少し白いものが混じり始めた金髪に、彫りの深い顔の背の高い美青年。そんな彼に対して、東洋人の男は、目を丸くしながらそう尋ねた。
「ああ。あのラ・トレムイユの差し金だ。あいつの弟は、ブルゴーニュ公の侍従だからな」
「何と節操の無い!」
「まぁ、あいつは騎士でもないしな。保身の為には、いろんな策を巡らせておいても、卑怯とは思わぬのだろう」
 対立していて、一番嫌っているはずのアルテュール・ド・リッシモンが冷静にそういうと、彼の分まで腹を立てている様子のヨウジイが尋ねた。
「何故、閣下はそんなにも落ち着いておられるのです? あのような薄汚い輩が策略を巡らせているというのに!」
「だからこそ、だ」
落ち着いてそう言うアルテュールをヨウジイは目を丸くして見詰めた。
「あやつは、ありとあらゆる策略で、私を再び排除しようとするだろう。今回のブルゴーニュ派との休戦も、その一手にすぎぬ」
「陛下とブルゴーニュ派を結び付けて、双方から閣下を排除する、ということでしょうか?」
「おそらく、ブルゴーニュ派は、そうはせぬであろう。一度は、陛下から王位継承権を剥奪された方だ。まだ国王の座を狙われていると推測するのが妥当だろう」
「では……」
 アルテュールの次の言葉を促すヨウジイの両瞳(め)からは、先程までの怒りに満ちた光は消えていた。