一四二九年六月一〇日。
 オルレアンの東のジャルジョーを、続いてマンとボージャンシーをジャンヌ達が落とした頃、総司令官のアランソン公ジャンとその隣のジャンヌの所に、一人の兵士が走って来た。
「司令官、援軍です! それも、かなり統制のとれた軍団です!」
「ほう。どこのものだ?」
「アルテュール・ド・リッシモン様の軍団だそうです」
 その名に、思わず一同から「おおっ!」という声が上がった。
 アルテュール・ド・リッシモン? 確か、そのお名前、以前、シモーヌさんからお聞きしたことがあるわ。バート……いえ、バルテルミさんからも……。こんなに人気のあるお方だったのね!
 ジャンヌは心の中でそう呟きながら、嬉しそうな表情のラ・イールやジャン・ド・デュノワ達を見回した。
「乙女は、リッシモン殿をご存じか?」
 そんな彼女にそう尋ねてきたのは、アランソン公だった。
「いえ……。お名前だけしか存じません」
「そうか。ならば、私と同じだな」
 アランソン公はそう言うと、微笑んだ。
「ですが、これだけ人望があるということは、余程素晴らしいお方なのでしょう」
「そうだな。お会いするのが楽しみだ」
 アランソン公がそう言った時だった。広場に、白く輝く鎧に身を包んだ長身の人物が入って来たのは。
「アルテュール・ド・リッシモンの使いの者です。入城の許可を頂きたいのですが、総司令官殿はどちらにいらっしゃいます?」
 そう尋ねる声は、綺麗なソプラノで、兜を脱いだ下に現れたのは、色白で整った顔立ちに、綺麗に波打つ金髪だった。
「おおっ……!」
 清純無垢なジャンヌとは違う、凛とした美しさの美少女騎士の登場に、その場にいた男達は思わず声を上げた。
「そなたは?」
 そんな中、一番先に声をかけたのは、アランソン公ジャンだった。
「私は、リッシモンの忠実な部下にして腹違いの妹のシモーヌと申します」
「よく参られた、シモーヌ殿。私が司令官のアランソン公ジャンです」
「これは、ご無礼致しました」
 シモーヌはそう言うと、彼の前にひざまずいた。
「兄の入城許可を頂きますでしょうか?」
「無論、歓迎致すと伝えられよ」
「ありがとうございます」
 シモーヌはそう言うと、ひざまずいたまま、軽く頭を下げ、そして立ち上がった。