「嫌な予感……ですか? まさか、お嬢様がお怪我をされる、とかですか?」
「いや、俺だ。あの乙女のそばで戦っていたので、過敏になっているだけだとは思うんだが、こんなに思い、嫌な感じがするのは初めてでな……」
「はぁ……」
 ヨウジイは、彼が言おうとしているのが「死の予感」だと察し、困ったような表情で視線を左右に動かした。
「では、お嬢様を遠ざけたのは、自分に万が一のことがあった場合、ショックを受けないようにと……」
「それもあるが、俺自身、怖くてな……。傭兵なんて稼業をやっているくせに、情けないが……」
「いえ、そんなことはないですよ。死は、誰でも怖いものですから」
 その単語に、近くにいた男も思わず二人を見た。
 その場にいる男達もみな、死と隣り合わせの戦いに従事している者だと気づき、それ以上のことは言わないようにと、ヨウジイは思わず口を手で覆った。
「あいつには、言わないでくれよ。何なら、もう他の女がいると言ってくれてもいい」
「そんな……!」
「あいつには、いつも微笑んでいて欲しいんだよ。折角、あんなに若くて綺麗で、気品もあるんだからな」
「はい……」
 それは、ヨウジイとて、同じ想いだった。だからこそ、それ以上、何も言えなかった。
「では、私はこれで戻ります」
「ああ」
 バルテルミはそう言うと、カウンターの上に置かれたジョッキをグイと空けた。ヨウジイを見送りもせずに。
 出来ることなら、私もお嬢様に微笑んでいてもらいたい。心からの笑みで、それが私に向けられるものならば、どんなにいいか……。
 そこを後にした男も、そこに留まった男も、どちらも切ない想いは同じだった。