「どのお方の部隊が一番強いかって? そりゃ、今はやっぱり、あの乙女の部隊だろううよ」
 カウンターの傍で一人の男がそう言うと、横にいた男が口を挟んだ。
「けど、あの乙女は旗を持ってるだけだ。やる気は確かに起こるが、誰よりも功をあげるんなら、自らも突っ込んで行かれるラ・イール様じゃないか?」
「ラ・イール様ですか?」
 ヨウジイがその名を繰り返すと、男は頷いた。
「そうだ。その名の通り、短気で少し怒りっぽいが、その分強いし、部下の面倒見も良いと聞いてるぜ」
「そうですか」
「今は残念ながら辺りの哨戒に出ていらっしゃらないが、もう少ししたら帰って来られるだろう。会いたきゃ、もう少し此処で待ってな!」
「はい。色々とありがとうございました」
 ヨウジイはそう言うと、懐から銀貨を出し、二人に渡した。
 情報料としては少し多めだったので、二人は目を輝かせてマスターにいい酒を注文した。
「随分羽振りのいい東洋人が来てると聞いたが、やはりお前だったか」
 二人の様子を冷ややかな目で見ていたヨウジイの背後で、聞いたことのある声がそう言った。
「バート……いえ、バルテルミさん」
「『さん』は要らないよ」
 バルテルミと改名し、髭を少し伸ばした男は、少し日焼けをし、より一層男らしくなっていた。
「お嬢様は、礼拝堂です」
「行く訳無いだろう。あいつとは、別れたんだからな」
「ですが、お嬢様はまだ……」
 そう言いかけるヨウジイを、バルテルミは手で制した。
「俺みたいなのと、いつまでも貴族のお嬢様が付き合ったりしちゃ、何かと良くないだろ」
「まぁ、縁談の話なら確かにあるようですが、奥方様はお二人の味方ですし、貴族の結婚など、建前のようなもので、愛人が外にいてもおかしくないと聞いています。ですから……」
「嫌な予感がするんだ」
 バルテルミの言葉に、ヨウジイは思わず彼を見た。