「援軍? そういえば、私達が此処に来た時も、どなたかの使者かと聞かれたわね」
「ええ。此処の解放の噂を聞き、続々と各地から諸侯や志願兵が集まって来ているようですので、それと間違われたのでしょう」
「そうね」
 まだ興奮冷めやらぬ群衆を見ながら、シモーヌがそう言うと、ヨウジイは彼女に近付いた。
「お嬢様、本当に元帥閣下の名を出さなくて宜しいのですか?」
「いいのよ、出さない方が。どこにあのラ・トレムイユの手下がいるとも限らないんだから」
「それは、そうですね。私も気をつけて動きます。それと……」
「何、まだあるの?」
 少しうんざりした表情で、シモーヌがそう尋ねると、ヨウジイが遠慮がちに口を開いた。
「あの方が、此処におられるそうです」
「あの方……? まさか、ブルターニュ公?」
シモーヌが複雑な表情で、実の父、ブルターニュ公ジャン五世の名を出すと、ヨウジイは首を横に振った。
「いえ、そうではなくて、その……バートさんです」
 その名に、シモーヌは目を大きく見開いてヨウジイを見た。
 そんな彼女の反応に、思わず目を伏せる、ヨウジイ。
「……そう。まぁ、当然ね。あの人は、傭兵なんだもの」
 やがて彼女がそう言うと、ヨウジイは遠慮がちに彼女を見た。
「何、ヨウジイ?」
「あの……お会いにならなくて良いのですか? まだすぐそこの居酒屋に……」
「いいわ。それより、様子を探るのが先でしょ。誰が真に兄上の味方なのか。そして……」
「噂の乙女の力、ですね?」
「ええ」
 ヨウジイのその答えに、シモーヌは満足げに頷いた。
「ヴォークルールに行く前と、そこに着いてからも何度か会ったことはあるけど、まさかここまで慕われるようになるとは思わなかったわ」
「そうですね。本当に凄いです。大体は乙女(ラ・ピュセル)と呼ばれているようですが、中には聖女と崇める者もいるようですから……」
「危険ね」
 シモーヌはそう言うと、顔をしかめた。
「まさか、閣下の身に……」
 ヨウジイの言葉に、シモーヌは苦笑した。
「違うわよ! 乙女のことよ。彼女が宮廷の人間の妬みを買い、最悪の場合、命まで狙われかねないってことよ」
「ああ、成程……」
 ヨウジイはそう言うと、顔をしかめた。
 おそらく、敬愛するアルテュールのことと重ねているのだろうと、シモーヌは思った。
 だが、アルテュールとジャンヌでは、決定的に違うことがある。男女の違いの前に、剣が扱えるか否か、である。
 少しの間、シモーヌが指導したとはいえ、農村育ちの彼女が、そんなに容易く使いこなせるようになる訳が無く、何とか剣を振りまわせるようになった程度だった。
「何度か本当に戦場に立ったのだもの。少しはマシになっているだろうけど、まだ誰かが守っていないと、危ないわ」
 シモーヌが小声で呟くようにそう言うと、ヨウジイが困ったように視線を動かした。