だが、ゴークール達指揮官の考えは、そんなに希望に満ちたものではなかった。この勢いに乗じて、一気に南岸のトゥーレル砦を陥落させようと言うジャンヌに対し、守りに徹するようにと言ったので。
「又ですか! このオーギュスタン砦を落として、分かってもらえたと思ったのに!」
「それはそれ、これはこれ、だ! 我々は、君より経験が豊富だ。その我々が下した結論に従ってもらおう」
 ゴークールのその言葉に、オルレアンの私生児(バタール)ジャン・ド・デュノワやラ・イールも頷いたが、ラ・イールは少し申し訳無さそうな表情をしていた。
「お断りします」
 だが、ジャンヌはきっぱりそう言い、一同は目を丸くした。
「あなた達にはあなた達のお考えがあるのでしょうが、私には私の考えがあります。そして、私の主の考えが実現し、あなた達の考えは通らないものとお考え下さい」
「それはつまり、我らの言うことなど聞けぬ、ということか?」
「はい。そして、私の言うことに従って頂きたいということでもあります」
「まだ子供のくせに、生意気な!」
 腹に据えかねたゴークールが語気を荒げ、拳を振り上げた時だった。
「やめろ! やりすぎだ!」
 そう言って彼の腕をジャン・ド・デュノワが掴んだのは。
「オルレアンの私生児(バタール)……」
 彼のあだ名を呟いたジャンヌが、ほっと胸をなでおろすと、彼はその耳元で囁くように言った。
「だが、君もやりすぎだ、乙女よ。次も止められるとは限らぬぞ」
 その言葉に、再びジャンヌの表情が堅くなった。
「それでも……やらねばならぬのです。少しでも早くオルレアンを解放しなくては……!」
「それは、俺達とて、同じ思いだ」
 そう言うと、ジャンは軽く彼女の頭を撫で、頷いた。
「でしたら……!」
「様子を見てから、だな。明日の。それで良いな?」
「はい……」
 力無く、ジャンヌがそう言って頷くと、ジャンは微笑みながら頷いた。
「決まりだ」
 チッと反対派の先鋒、ゴークールは舌打ちしたが、ジャンに睨まれると、大人しくなった。