「うむ?」
 流石に周囲の兵士達の嫉妬の眼差しに気付いたのか、ラ・イールがそう言いながら周囲を見渡すと、苦笑しながらピエールが近付いて来た。
「ラ・イール様、今日はそれ位で。ジャンヌも本当に疲れていると思いますので……」
「おお、そなたは確か、この乙女の兄君の……」
「ピエールでございます」
 そう言いながら彼が少し頭を下げると、ラ・イールは大きく頷いた。
「ああ、確かそういう名であったな! そなたが傍で見張るのか?」
「いえ、ここには女中もおりますゆえ、一人それをつけて、世話をしてもらうつもりでおります」
「うむ、それならよい」
「ラ・イール様……」
 苦笑しながらそう呟くように言ったのは、ジャンヌ本人だった。
「兄は、真面目で誠実な人柄ですので、変なことなど起こりようがありません。大丈夫でございます」
「兄君はそうだとしてもだな……」
 ラ・イールはそう言うと、彼らを少し離れた所から取り囲むようにしている兵士達を見た。
「他の奴らがいい気がしまい? それを心配したのだよ」
「はぁ……」
「まぁ、乙女はそのような瑣末(さまつ)なことなど気にせず、ゆっくり休むがよいぞ」
 ラ・イールはそう言ってにっこり笑うと、バンと少々少女に対しては強めに彼女の背中を叩いて、建物の方に押しやった。
 本当に良い人なのだが、力加減が分からないというのが難点かもしれんな……。
 倒れそうになった妹を支えながら、ピエールは心の中でそう呟いた。