目が覚め、部屋の扉を開けるといい香りがしてきた。
ご飯できたのかな?
キッチンへ向かってみると、ちょうど伊織くんは料理をしているところだった。
私に気がつくと、
「もうすぐできるから座って待ってて」
言われたとおりにダイニングテーブルについて待つ。
結婚してからずっと、こんな光景を見れるなんて思ってなかった。
だって、伊織くんが料理してる。
そんな姿を見れるなんて夢にも思ってなかった。
私の前には美味しそうな料理が次々と置かれていく。
「味の保証はできないけど」
ちょっとぶっきらぼうに伊織くんが言う。
「おいしそう、いただきます。」
手を合わせ、食べ始める。
「うん、おいしいよ!すごくおいしい」
私なんかより数倍もおいしい。
伊織くんが私のためにご飯を作ってくれたのが嬉しくて、胸がキュンとした。
それより、伊織くんと一緒に食卓を囲んだのはどれくらい振りだろう。
生活サイクルのすれ違いで、結婚してからというもの片手で数えられるくらいしか一緒に食べたことはない。
「ほんと美味しそうに食うな」
頬をほんの少し緩めた伊織くんがつぶやく。
「だって美味しいんだもん」
朝まではあんなに食欲がなかったのに、ぺろりと夕飯を平らげた。
「ごちそうさまでした、伊織くんありがとう」
やっぱり彼は優しい。
その優しさがなんだか、今は暖かくて嬉しかった。

