引っ越してきたばかりで、小学校の頃の友達が一人もいないので、一人ぼっちで中学入学を迎えた。一人でクラス表を見て、不安がいっぱいの中、教室に辿り着いた。

知らない顔ばかり。
はしゃぐ新しいクラスメート達の中に入っていくのは過酷だった。

静かに席について、これからどうしよう…友達が一人もいない…なんて考えながら、黒板の座席表をもう一度よく見た。

(隣の席が市坂玲音くん…、前が高野琴美ちゃん…、斜め前が速水大地くん…どんな子なんだろう…?)


「みんな席について!」

新しい担任の先生は、優しそうで、元気のいい若い女の先生だった。神山奈津先生。

先生の号令で一斉にみんな席につく。

「木内…ゆう‥か?…俺、市坂玲音!引っ越してきたばかりなんでしょ?」

隣の席の玲音は、端正な顔立ち…いわゆるイケメンで、明るい性格の男の子だった。玲音は、先生の話をお構いなく話し続けた。

「ほら、前のやつは高野琴美だよ。」

玲音は琴美の背中を叩いた。

「玲音、静かにして?」

琴美は、長い綺麗な黒髪をポニーテールにしている、可愛い女の子。

「琴美の隣は大地な。入学式早々いないし、あいつ何やってんだよ。」

「大地くん、いつもこうなの?」

私は、恐る恐る聞いてみた。

「この子は、病気持ってるから…いつもこんな感じだったの。」

玲音の代わりに琴美が答えた。


「すみません、遅れました。」

ちょうどその時、遅れてお母さんと登校してきたのが大地だった。

「おせぇなぁ。大地!」

「うるせぇよ。」

玲音と大地は仲が良さそうだ。
大地は、ふらつきながら席に座り、深く椅子にもたれた。

「大地、引っ越してきたばかりの悠香ちゃん。お前彼氏になってやれよ?」

「余計なお世話だ。」

玲音が調子良く言うと、大地は、迷惑そうな目を向けた。


そんなことをしているうちに、入学式が始まることになった。

入学式の席は大地と隣同士だった。

「大地くん…体調大丈夫?」

「…なんで?知ってるの?」

大地は、驚いたような目をして私を見た。
凛々しい眼差しでじっと見つめられて、私は思わず目を背けてしまった。

「…大丈夫ならいいんだ。」

なんでだろう、自然と顔が熱くなった。

「悠香ちゃんこそ大丈夫?」

大地は、私の顔を覗きこんできた。私は、顔が赤くなってないか気になって、咄嗟に俯いた。

その日大地とのやりとりはそれだけだった。