「…あのな」
「そうだよ!決定!」
「おい」

急展開もいいところだ。
何故か出会って10分の少女と同居する話が出てきているんだろうか。

「お前頭おかしいだろ」
「お前じゃない!私は冬華!」

「はいはい、とりあえず話し合おう。とにかく如月の寝床を考えよう」

別に考えてやる義理もないんだが、助けてしまったからには中途半端に放っておくのも可哀想だ。

「だから、春樹の家じゃダメ?」
「ダメだ」

即答すると、如月は頬を膨らませ「良い子にしてるのに…」等と言っていた。

そういう問題じゃないだろうと。

「…でも、ほんとに帰るところ無いもん」

とても悲しい顔で、如月は窓の外を見た。
…本当に、記憶喪失なのか?

「……じゃあ、包み隠さずに答えてくれ。家出じゃないんだな?」

別に、優したつもりはない。同情したつもりはない。
ただめんどくさいだけだ。
そこら辺で野宿されても迷惑だし、そこら辺で死なれても困る。

事件にでもなってしまえば、それこそ面倒だ。

「…わかんない。もしかすると家出なのかなって、思い始めた」

「だって、あんまり覚えてないから」


悲しく笑う如月を見て、昔の自分と重ねていたのかもしれない。

『思い出の1つも無いから、何ともないよ…』
始めて両親にあった日。両親の命日。施設を出た日。
本当の、天涯孤独になった日。

あの日の俺も、こんな風に笑っていたのだろう。

「…記憶が戻るまでだぞ」

そう言うと、如月はキラキラとした目で抱きついてきた。

「おい!離れろ!」
「ありがとうございます!!」

先程から不安だったのだろう。
安心したように、涙を流し始めた。

「…記憶が無いからって、見知らぬ男を頼るのはやめた方がいいと思うぞ」

ため息をついて、泣き続ける如月の頭を撫でた。