「…望まなかったら?
あんたはわたしを襲うつもり?」
「好きでもない相手に手を出す趣味はない」
「信じられない。
あんたの利益は?見返りは?」
「何の罪もない…これ以上、傷付かないで欲しいだけ」
「は?」
「まぁ、君から見れば赤の他人。
俺が嘘ついて騙してると考えて当然だし、おかしなやつだって思ってくれて構わない。
もし、結果が同じだったとしても、見て見ぬ振りしたら後味悪いんだ。
利益も何もない、俺の自己満足なだけ」
「…変な人」
別に、信じた訳じゃない。
逃げられる可能性が高いから。
「その自己満、付き合ってあげる」
「うん、ありがとう」
そう言って、男は持っていた傘を開いた。
「濡れるから、入って」
「……………」
大きな傘の下、無言のまま、出口に向かって歩いた。
隣を歩くその人は、思ったより背が高かった。
時折香る甘い香りは、きっと香水なんだろうな。
基本的に香水は嫌いだけど、この香りは別に悪くない。
問題のトイレの前を通り過ぎるとき、横目でトイレの方を見ると、人影が見えた。
そして、舌打ちらしき音も聞こえた。

