「綾瀬!私も支度を」
「はい、お嬢様」
綾瀬、と彼の名を呼んだ。
綾瀬はテラスにひとりぼっちになったお人形の元へ駆けつける。
可愛らしい顔立ちをしたその少年は。
いつかの庭師と同じ年くらいだろう。
「今日、お姉様の恋人が来るんだってね?」
「はい。ご主人様も大変お喜びになっておられました。」
「へぇ、お父様にも話はまわっているのかしら」
長い廊下を歩きながら
綾瀬にそう尋ねた。
「榛奈様は、紫子様の婚約者候補でございます。そのお二人が恋人同士になられたのであります。ご主人様は一層お喜びの様子でございました。」
仲睦まじい婚約者候補の二人を祝してのお食事会、ねぇーー
はたしてこの家でそんな一大イベントがなんのトラブルもなく終わったことなんてあったっけ?
「私がこの世で1番美しく見えるピンクのドレスを」
私は妖しく微笑みながら
綾瀬にそう言った。
