『鶴? 帝から手紙がとどきました。
 読みますか?』



『帝からですか?』


『鶴。あなたは、中宮の身です。
 もうそろそろ戻ったらいかがです?』


『まだ、ここにきて間もないですよ?』


『里帰りは、子を産む時だけにしなさい。
 あなたは、体調も悪くないのですか   ら。』


『帝には、大勢の女御、更衣がおります。
 それに御子も産まれるとか。
 今、宮中はその話で持ちきりです。』


『あなたは、嫉妬をしているのですか?
 帝に。』



『なぜです?そのような……』



『隠さず、表に出して。
 全部、お話しなさい。』


優しく言われた。



『私を、何の後ろ盾のない女人なのに中宮 にしてくださいました。
 それは、とても嬉しかった。
 嬉しかった…
 でも、後継ぎを産めとなると話は別で  す。』



『別、とは?』



『あのお方には、別の方がいらっしゃいま  す。
 私には、関係ないのです…
 周りからも、後継ぎをと毎日言われ…
 でも、あの方は来てくれぬのです。』




鶴の君は、涙を押しこらえていった。




『私は、中宮です。
 高貴な姫として、帝の妃として
 我慢せねばならぬのです。』




『そのように、威張っていると帝も寄り付 きませんよ。
 あなたは、中宮。
 だけれども、一人の女人…
 苦しいなら苦しいといいなさい。
 誰でも、いいのです。
 一人で、抱えないことが一番。』



『母上……』

涙が押さえても出てくる。  




誰にも、言えなかった。



例え、松の君にも……