今日は運転手で


キヨシって言うのは、あたしのこと。

本当は香川清香(キヨカ)と言うのだけれど、周防はあたしをキヨシと呼ぶ。

つまり、男扱いされてるわけだな。

「別に、したくなんかない。ただ、母のわがままに逆らうより、従ってたほうが楽なだけ」

中から、笑い声がした。

「オレと一緒の理由だな。あのヒトには、逆らわないほうがいい」

「うん。あたしも20年かけて学んだ。周防さんは賢いね。学ぶのが驚異的に早い」

「保身力が高いんだ。まあ、誰でも同じ結論にすぐたどり着くと思うけどね。20年もかかったのはキヨシくらいだ」

「そうかも」

「何で、こんなに見合いさせたいんだろう」

「母、若くてかわいい義理の息子に憧れてるんだよ。そのためには、娘が若いうちじゃないと、相手の年齢も上がって行っちゃうじゃない?」

「・・・若くてね」

シャワーの音が止まる。

「悪い、タオル、取って貰える?」

邪魔だから、出て行こうと思ってたのに。

棚の上の真新しいふかふかのタオルを取って、シャワーカーテンの隙間から差し出す。

「ありがと。・・・だから、オレは候補に上がらなかったのか」

・・・出て行くタイミング、逃しちゃったじゃないか。

「あのね、母は若くて『かわいい』義理の息子が欲しいのよ」

シャワーカーテンが少し開いて、周防が顔を出す。

「ああ、そうなんだ」

じっとりとあたしをにらんでる。

あたしは笑った。