あたしは、すっと腕を離して、先に歩き出す。
「え?怒った?」
「別に、何も」
ただ、自爆しただけ。
恥ずかしいから、逃げていたい。
でも、この尋常じゃない心拍数の上に、足早に歩いていると、非常に苦しい。
仕方なく、ちょっと速度を落とす。
周防が、難なく追いついてしまう。
じゃあ、いっそ。
もっとずっと歩くのを遅くする。
「何で、急に機嫌悪くなるかな」
周防の不満が降ってくる。
「別に、機嫌が悪いわけじゃ」
言って、周防を見た。
不満な表情じゃない。
どっちかっていると、心配されてる?
「・・・機嫌が悪いわけじゃないよ。ただ・・・怖いじゃない。ああいう高級なとこ」
「怖い、かな」
多分。
本当は、あんまり近くにいた周防に動揺しただけなんて、言えないから。
でも、『怖い』は言い過ぎでも、あんまり心地の良い場所ではない。

