今日は運転手で


思いきっり、母の好みそうなこのルックス。

間違いなく、今日のお見合い相手。

あたしは立ち上がって、ばね仕掛けのようにお辞儀をした。

「こっ、こんにちは」

「よかった。香川さんなんだね。ここ、座っていい?」

斜め前の椅子に、山野は沈み込む。

それから、浅く腰掛けなおして、

「すごく若いし、かわいい子なのに、なんでお見合いなんかするんだろうって。ものすごく気になったから、断らないで来てしまったんだけど。ひとつ訊いていい?」

「・・・はい?」

「本心で、結婚したいと思ってる?」

「思ってないです」

あたしを覗き込んでいた山野は、ニッコリと笑った。

「気持ちのいい即答でよかった。それなら、お願いしてもいいかな」

「はあ」

「時間稼ぎがしたい。僕は、まだ仕事をしていたいし、遊んでいたい。だから、すぐに断らないで、『おつきあい』してることにしてくれないかな。そのうちに、自然消滅したことにしてほしい。香川さんにとっても、次を薦められないいい手だと思うんだけど?自分の意思じゃないってことは、あのお母さんのごり押しなんだろ?」

「うん」

「断れないから、来てしまう。でも、疲れない?」

疲れる?

そうか。疲れることなのか。

「・・・それとも、毎回ボディーガードにやってくる、あいつに会えるのが楽しみなのかな?」

「えっ・・・」

目が泳ぐ。

「前に、オレの友達もあなたとお見合いしてるんだ。オレは、興味本位で付いて来てて、あなたも、彼も、そのときに見て知ってた。・・・でもね、彼、帰っちゃうよ」

あたしは慌てて、目で探す。

歩いてきた方向へ、ゆっくりと、戻っていく周防の姿が見える。