「この樹はアルカディアで唯一、科学的な操作を施していない樹なんです。遺伝子上、かつて地球に緑が溢れていたころのままと言うことなのですが…。」

カイザーは彼のごつごつした幹に手をついて言った。

決して…決してアルカディアの木々たちが生物らしくないと言うことではない。

けれど彼のような、儚さと力強さと言う両極面を持ち合わせる命の輝きはアルカディアの木々にはない。

それはきっと、環境に適したカラダ…本来ならば、いやそのために作り上げられたカラダには力強さはあっても儚さはないからだろう。

命は尽きるから、いつか尽きることがわかっているから誰しもがその限りを懸命に生きるのだ。

ああ、だから…。
だから「彼」は今このような姿なのだ。

熱への耐性も、異常なまでに澄んだ水も砂漠に慣れた彼の体には合わない。

しかし外界のような栄養状態ではすぐに朽ちて行くことは間違いない。

彼の体に循環する矛盾。

たっぷりの栄養と美しい水。
そしてそれに「耐える」ための薬が彼には必要なのだ。