浩二に導かれて出ると三人はその美しい光景に圧倒された。モニターでは感じ得ることのできない木々の匂い、川のせせらぎ、風の色。
これがアルカディア。

「どうです、美しいでしょう?」

浩二は見慣れているはずの景色に、まるで初めて出逢ったかのように目を細め、ため息をつきながら言った。

「バニッシュ処理がなされないということは、この国では多くの矛盾や苛立ち、不快感を覚えるかもしれません。でも外の世界の記憶が新しいうちにこの国の美しさを、初めてこの国を見た今の気持ちをしっかり心に焼き付けておいてください。これが…カイザーの強い意志により必死で守られている国なのです。」

これから一生、命が尽きるまでこのアルカディアに住む。
カイザーも浩二も同じように、突然訪れた運命を受け入れてきたのだろう。
本当に心から受け入れられるまでどれくらいの年月を要したかを三人は知る由もない。しかし迷った時、悩んだ時にはこの景色を見つめたに違いない。

「外の世界よりましだ」と思うため?

いや、おそらく違う。
この国を、アルカディアを外の世界と同じ道をたどらせないために。

何が正義で何が悪かなんて、誰にもわからない。だとしたら自分の信じる正義を貫くしかない。
―たとえ世界大戦が同じような理由で起こったと知ってはいても―だ。

三人がわかっていることはたったひとつ。
ここが自分たちにとって楽園かもしれないかは、未だわからないということだけだ。