樹里の口の中はアルコールの味がした。

「お酒の味がする」

一が言うと樹里は罰の悪そうな顔で「来る前にもまた缶ビール一本空けちゃったの」と言った。

「先生がそんな酒好きだとは知らなかった」

「言わないでよ。そーゆーこと」

「何で。いいじゃん俺も飲みたい」

「ダメ」

からかう一に樹里が怒った顔をする。
朝から苛々していた気持ちが落ち着いていくのがわかった。

買ってきた惣菜や弁当をベッドの上に並べて一と樹里はピクニックのようにして夕食を取った。
樹里は部屋の冷蔵庫からまたビールやワインを取り出し飲んでいた。

一は何度もそれらを飲ませてとお願いしたが、樹里は先生ぶって飲んじゃダメと言い、結局一滴も飲ませてはくれなかった。

だんだんと頬がピンクに染まってテンションの上がっていく樹里を見ているのは新鮮でおもしろかった。

「そういえばさ、田谷と長谷部って付き合ってるらしいよ」

「田谷って誰?」

「二年のチビで目の細い、陸上部の。いっつもうるせーんだけど、先生見たことない?」

「あー、何かわかるかも。ってゆーか私保健室来ない子殆ど知らないし」

「へえ。でも俺の名前最初っから知ってなかった?」

何気なく聞いた言葉に樹里が赤い顔をますます赤くする。

「あー、うん。わかった。先生アレだった」

「アレって何よ!」

「いいじゃん。俺も先生のことはたまに見てたよ。同じ部の相沢が先生のこと可愛いって言ってたし」

「何それ。何か違うじゃん。見てた意味が」