「我慢なんかしてない」そう言おうとしたけれど声にならず、結局電話を切った。

食料を調達した一はもう一度デパートの中をふらつき、安い帽子を買った。
深く被れば顔は隠せる。買ったそれをそのまま目深に被り、一はホテルへと足を向けた。

人混みの中でこれほど自分の気配を消したいと思ったのは生まれて初めてだった。

時折高校生のカップルや大人のカップルを目にするたび、自分がまだ中学生であることに嫌気がさす。

一気に、せめて後五歳くらい歳をとりたかった。