鞠には多分わからない。樹里が感じた恐怖。花火大会の夜に決意したこと。

誰にもわかってもらわなくてもいいと思っていた。誰かに話したいわけでもなかった。

それでもいざという時、本当のことを言えない自分が嫌で、そして同じようなことを一にもさせているだろう自分が嫌だった。

「本当の本気で好きなら、自分の強い想いがあれば一緒にいられなくても気持ちは揺るがないし大丈夫って、あの時の私はそう信じてた……」

ぽそりと独り言を言うように零して樹里は残っていた仕事を黙々とこなして帰り仕度を整えた。

病院の裏口から外に出ると空は雲一つなく、星が散らばっていた。

オリオン座に北斗七星。

知っている星座といえばそれくらいのものだけれどいつも星を見つめてはしばらく立ち止まってしまう。

風は涼しかった。

虫の音とかえるの鳴き声が響き渡る。

こんな夜に車の中で一晩を過ごしたこともあった。

今となっては遠い昔のこと。

あの頃が樹里の人生で1番輝いていて、美しかった。