サイレント

「お前……最低だ」

ぐっとナース服を引っ張られて腰が浮いた。

「だったら、嫌いになればいいよ。私のことなんか」

手に入らないものを追い求めて時間を無駄にするより、別のものを探した方がいい。

一の瞳は赤く充血していた。血走っていて、まるで野生の獣みたい。

振り上げられていた手が拳を作る。

「こんなことで俺が……嫌いになるとでも……思ってんのかよっ。みくびんなっ」

別にみくびってなんかいない。一が賢くて真っ直ぐな人間だと1番良く知っているのは樹里だ。

それだけは自信を持って言える。

そして一は強くて優しい。

それに比べて樹里は弱くて卑怯で歪んでいて愚かだ。

一が光なら、樹里は間違いなく影。

注目も浴びず、誰にも気付かれず、ひっそりと身を隠す。

「もう終了時刻だよ。帰って」

「……嫌だ」

一の瞳が陰る。本来明るく輝いているはずの瞳。それを暗く陰らせてしまうのは樹里の闇が彼を飲み込もうとするから。

「ここは子供の遊ぶ場所じゃないの。これでもう二度とここには来ない約束だからね」

樹里は自分の胸倉を掴んでいた一の手を引きはがすと一に背を向けた。