サイレント

一の表情が一秒単位で変化してゆく。

不快へと、ソレは変わった。

虫の音がやかましい。空気が澱む。

だから、言いたくなかった。

「俺のことからかってんの?」

「まさか」

「頭おかしくなった?意味わかんないんだけど」

「まともだよ。私はハジメくんのお父さんが好き。世間ではそれを不倫というのかもしれないけど、淫行と違って警察につかまったりしないし、さらに言えば今陽平さんは奥さんと別居中」

樹里は話しながら自分の頭が冷静に冴えていることに驚いた。

仕切り一枚挟んだ向こうに人がいることを忘れずに、声のトーンは低くして囁く。

「離婚して私の所へ来てくれる可能性は十分あるよね。……そしたらハジメくんは私の息子になるのかな?」

わざと地雷を踏む。

一はベッドを蹴り倒す勢いで立ち上がると、樹里の胸倉を掴み手を振り上げた。

暴力で気が済むのならいくらだって殴ればいい。

自分を裏切った女はさぞかし憎いだろうから。

「ジュリ……お前は……」