サイレント

「知ってどうするの?知ったらきっと嫌な気分になるよ」

一の黒い瞳はぶれることなく樹里に突き刺さるから苦手だ。
まるで責められているみたいな気持ちにさせられる。

実際、今は責められているのだけれど。

「それでも知りたい」

樹里は最低な人間だから。責められるに値する嫌な女だから。

「そんなに知りたいなら教えてもいいけど、邪魔しないでよ」

嫌われる覚悟は出来ていた。今から樹里は最低なことを口にする。

樹里は一に掴まれている指に力を込めた。

「陽平さん」

一がぽかんとした顔をした。理解していないようだからもう一度わかりやすいように言った。

「芹沢陽平。ハジメくんのお父さんだよ。今私が好きな人」

一とよく似た瞳を持つ大人の男。
息子と父親、どちらも樹里からしたら十分恋愛対象になりうる年齢。

父親の方が障害も少ない。

「は?」というのが一の第一声だった。