一が目指すのは県内トップクラスの進学校。

単に詰め込むだけの授業ではなく、生徒個人の能力を信頼してある程度自由にさせてくれる校風が魅力的だし、何より一にはその高校に入りたいと思う特別な理由があった。

誰にも話していないし、受かるまで樹里にも話さないでいるつもりだ。

「親父、身体の調子はどう?」

「ん?身体か?まあ、そんなもんかな。良くもなく悪くもなくってトコロ。薬代がバカ高くて嫌になるぜ」

父は軽く茶化すように言って笑うが、内心本気で毎月の治療代のことを気にしているのを知っている。

貯金を切り崩すのももう限界で、祖父に頭を下げていること。
たまに割の良さそうな求人情報が載ったチラシがあると、それを食い入るように眺めていること。

今までは見えなかった父の真面目な部分を目の当たりにすると正直見てはいけないものを見てしまったような気分になる。

「夏休みはあっちに戻るのか?」

「うん。一週間くらいはいるつもり。親父は?」

「戻ったらあいつに殴られて追い出されるのがオチだからやめとくわ」

「あ、そ」

父と母が今どういう関係なのか良くわからなかった。

喧嘩中。もしくは冷戦中といった所だろうか。

一はベッドに仰向けになりながら窓の外に広がる青空を見つめた。